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ヒヤリハットとは？

まずは基本を理解するために、ヒヤリハットの定義と関係する法則について解説します。

ヒヤリハットの定義

ヒヤリハットとは、「ヒヤッとした」「ハッとした」と感じるような危ない出来事が起こったにもかかわらず、運よく災害につながらなかった事象を指します。

トラック運転手のヒヤリハットは、運転中や倉庫での積み下ろし時など、あらゆるシーンで起こりえます。

ハインリッヒの法則（1:29:300の法則）

ヒヤリハットの関連でよく取り上げられるのが「ハインリッヒの法則（1:29:300の法則）」です。アメリカの損害保険会社に勤めていた安全技師ハインリッヒが提唱しました。

ハインリッヒの法則によれば、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、さらにその背後には300件のヒヤリハットが存在するといわれます。

この考え方から、日頃のヒヤリハット事例を収集・分析して対策を講じておくことが重要であり、事故の発生を未然に防ぐと考えられています。

出典：ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ報告制度の導入について(例)_厚生労働省

ヒヤリハット報告の目的

ヒヤリハット報告は運送、医療、介護、建設、製造などの幅広い業界で取り入れられています。なぜ、これほどにも多くの業界で重要視されているのでしょうか。ここでは、ヒヤリハット報告の目的を整理します。

労働災害の防止

ヒヤリハット報告の最も重要な目的は、労働災害の防止です。労働安全衛生法の観点からも、労働災害の防止に取り組まなければなりません。

運送業では、現場のトラックの運転手が日々の業務のなかで感じたヒヤリハットが、事故を防ぐための重要な資料となります。

危険予知能力の強化

ヒヤリハット報告をおこなう目的の二つ目は、危険予知能力の強化です。

ヒヤリハットの共有によって、従業員一人ひとりが「どういった状況でヒヤリとしたか」を把握できます。多くの事例を知ることで、危険ポイントへの意識を高められます。

出典：教育とヒヤリハット活動_厚生労働省

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ヒヤリハット報告書の書き方

ヒヤリハットの重要性を理解していても、「具体的にどう書けばいいのか」と悩む声は少なくありません。ここでは、基本的な書き方とポイントを紹介します。

書き方1.報告書に記載すべき項目は5W1H

ヒヤリハット報告書を書く際は、誰が読んでも状況を理解しやすいよう、下記の5W1Hを軸に整理しましょう。

When（いつ）：発生日時
Where（どこで）：発生場所
Who（誰が）：当事者や関係者
What（何が）：起こった出来事、背景
Why（なぜ）：原因や理由
How（どのように）：状況や再発防止策

原因や背景を記録し、再発防止策まで検討することで、同じ失敗を予防できます。

ただし、報告書に詳細を求めすぎると、ヒヤリハットが報告されなくなる原因になりえます。記載できる範囲内で自由記載を基本にするとよいでしょう。

書き方2.客観的に事実を書く

ヒヤリハット報告書を書く際は、主観的な意見・推測よりも客観的事実を記載することが大切です。客観的事実には、物量や作業工程、周囲の様子、設備点検の有無などが考えられます。以下は、客観的事実と主観的な意見・推測の違いを表した例文です。

事実：「大型トラックから荷物を降ろす際に、パレットが傾きかけた」
意見・推測：「不注意で、安全確認が疎かになった可能性がある」

正確な状況の記載によって原因が明確になるため、対策も立てやすくなります。

ヒヤリハット報告書のテンプレート

ヒヤリハット報告書に決まったテンプレートはありません。しかし、記載すべき内容に抜け漏れがないよう、既存のテンプレートを活かすのは一つの手といえます。

以下は、厚生労働省の「ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ報告制度の導入について(例)_厚生労働省」で公開されているヒヤリハット報告書のテンプレートです。URLからPDFをダウンロードできるので、必要な方は活用してみてください。

出典：「ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ報告制度の導入について(例)_厚生労働省」

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トラック運転手におけるヒヤリハット報告書の書き方具体例｜事例と例文

この章では、トラック運転手の業務で起こりやすいヒヤリハットの代表例を3つ紹介します。報告書を書く際の例文も提示するので、参考になさってください。

事例・例文①墜落・転落のヒヤリハット

事例：荷役作業中にテールゲートリフターから転落しそうになった。

状況

項目	記載内容
作業の種類	トラック荷台における荷おろし
いつ	2025年4月12日（火） 10時頃
どこで	客先の荷受けスペース
どうしていた時	トラック荷台に積んだ台車（約200kg）を、テールゲートリフターに載せようとしていた。
ヒヤリハットした、危険を感じた時のあらまし	台車を後ろ向きに引っ張っていたため、テールゲートリフターのストッパーにつまずきバランスを崩し、地面へ落ちそうになった。

どのような問題（不安全な状態又は行動）がありましたか

種別	内容
作業環境の問題	テールゲートリフター上での台車移動時、ストッパーが作業者の死角になりやすい。
設備機器の問題	テールゲートリフター自体は正常動作していたが、ストッパーの位置や形状が目立たず、つまずきやすい構造だった。
作業方法の問題	後ろ向きで台車を引っ張り、足元の確認を疎かにしていた。「テールゲートリフター上は前方を見ながら押す」という手順が徹底されていなかった。
あなた自身の問題	作業を急ぎ、「大丈夫だろう」という思い込みで後退しながら台車を動かした。足元確認やストッパーの位置を事前に把握していなかった。

今後の対策（こうしてほしい・こうしたほうがよい）【報告者記入欄】

対策項目	内容
1. 前を見ながら押す作業方法の徹底	トラック荷台やテールゲートリフター上では、台車を「後ろ向きで引っ張る」のではなく後方から押す方法を基本とする。周囲や足元の状況を常に目視確認する。
2. ストッパー・ゲート周辺の視認性向上	ストッパーやゲート端に反射テープ・注意喚起シールを貼るなど、視認性を高める施策を検討する。

安全管理者の記入欄

項目	内容
原因分析・再発防止策承認	「台車は原則、前方を見ながら押す」手順を改訂版に盛り込み、社内に正式周知（4月末まで）。重量物の移動時は二人体制なども検討。

事例・例文②転倒のヒヤリハット

事例：倉庫内の通路でスマホを操作していて、転倒しそうになった。

状況

項目	記載内容
作業の種類	倉庫内・荷待ち場所での移動
いつ	2025年2月15日（水）9時頃
どこで	倉庫内通路
どうしていた時	荷待ち中でスマホを見ながら歩行していた
ヒヤリハットした、危険を感じた時のあらまし	スマホ画面に集中し、通路の段差に気づかず転びかけ、膝を打ちそうになった。

どのような問題（不安全な状態又は行動）がありましたか

種別	内容
作業環境の問題	通路の段差に注意喚起の表示やマーキングがないため、見落としやすい。
設備機器の問題	特に機器の故障はない。
作業方法の問題	歩行中のスマホ操作をおこない、周囲の安全確認を怠った。
あなた自身の問題	「少しの間なら大丈夫」と思い込み、視界をスマホに奪われていた。

今後の対策（こうしてほしい・こうしたほうがよい）【報告者記入欄】

対策項目	内容
1. 通路に注意喚起を施す	段差部分に目立つテープや表示を貼り、つまずきが起こりそうなコードや荷物は即時撤去する。
2. 歩きスマホの禁止を徹底	倉庫や荷待ち場所での端末操作を禁止・制限する。端末操作の必要時は、安全な場所に一旦停止して行うルールを明確化する。
3. 朝礼・終礼などで継続啓発	小さな段差でも転倒リスクがあることを周知する。「足元を見ながら歩く」意識を高めるようミーティングで繰り返し指導する。

安全管理者の記入欄

項目	内容
原因分析・再発防止策承認	倉庫内の段差やコード類の整理状況を定期点検するよう指示（今月中に開始）。「歩きスマホ厳禁」を周知徹底し、違反が続く場合は個別注意を実施。表示物による注意喚起の強化。

事例・例文③交通事故のヒヤリハット

事例：トラックの運転中、黄信号を直進しようとして、対向の右折車と交通事故を起こしそうになった。

状況

項目	記載内容
作業の種類	トラックの運転中
いつ	2025年2月10日（月）11時頃
どこで	市街地の交差点
どうしていた時	配送先へ急いで移動していた時
ヒヤリハットした、危険を感じた時のあらまし	黄信号で交差点を無理に通過しようとし、対向の右折車と衝突しそうになった。

どのような問題（不安全な状態又は行動）がありましたか

種別	内容
作業環境の問題	市街地の混雑した交差点で、見通しが悪い箇所だった。
設備機器の問題	特に車両故障はない。
作業方法の問題	信号が変わりかけてもアクセルを踏み込み、安全運転を優先しなかった。
あなた自身の問題	配達時間に追われ、「これくらいなら行ける」と軽視してしまった。

今後の対策（こうしてほしい・こうしたほうがよい）【報告者記入欄】

対策項目	内容
1. 余裕ある配車・運行計画	信号や渋滞に左右される市街地ルートでは、時間に十分な余裕を持たせたスケジュールを組む。
2. 黄信号での停止意識徹底	黄信号は「進め」ではなく「停止準備」の合図。運転者全員が明確にルールを再確認し、遵守するよう再教育を実施。
3. 車両装備の活用検討	ドライブレコーダーや車間警告機能、衝突防止補助システムなどの導入を検討し、ヒヤリハットの低減を図る。

安全管理者の記入欄

項目	内容
原因分析・再発防止策承認	配車担当と相談し、ギリギリの運行計画を見直し（2月中に実施）。必要に応じて顧客にも連絡し、時間遅れリスクを理解してもらう取り組みをおこなう。

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ヒヤリハット活動の進め方

ヒヤリハット報告は、形式だけで終わってしまっては意味がありません。効果的なヒヤリハット活動の進め方は、次の通りです。

ヒヤリハット体験者が報告書を作成する
安全管理者がコメントを記入する
安全管理者、経営層などの関係者で具体的な対策を検討する
従業員全員にミーティングや社内報を通じて、安全対策を周知徹底する

初期段階ではヒヤリハットの報告数が少なくても根気強く続けることが重要です。「ヒヤリハットが報告されない＝安全」とは限りません。小さな事例も歓迎する風土を作りましょう。

具体的な対策を検討する際は、原因の根本を究明するために「なぜ？」を繰り返し考察する「なぜなぜ分析」が有効です。リスクの高いヒヤリハットは、優先的に改善します。ヒヤリハットの事例や改善策は、関係者全員に周知し、注意喚起を促しましょう。

ヒヤリハット報告の仕組みを強化する方法

ヒヤリハット活動をおこなっていても、「ヒヤリハットの報告が少ない」「ヒヤリハット活動に意味が見出せない」と悩むケースもあるでしょう。ここでは、ヒヤリハット報告の仕組みを強化する方法を紹介します。

報告の動機づけを行う

ヒヤリハット報告は多いほど事例が蓄積され、危険要因を排除できます。しかし、事故を起こしそうになった事実は、ヒヤリハット体験者にとって不名誉であり、報告が集まらないケースもあるでしょう。

この課題を解消するには、報告の動機づけをおこなうことが有効です。積極的に取り組みをおこなった従業員を表彰したり、賞金を授与したりとモチベーションを高める施策を検討してみてください。

ヒヤリハット報告に対して、責任者や経営層からフィードバックし、重要性を伝える取り組みも効果的です。

安全対策を講じる

従業員からのヒヤリハット報告に対して、責めるようなフィードバックをしてしまえば、報告が集まらなくなってしまうかもしれません。また、「不注意」で済ませてしまえば、ヒヤリハット活動が形骸化してしまう可能性もあるでしょう。

ヒヤリハット報告に意味を持たせるために、具体的な安全対策を講じる必要があります。次のような安全対策を検討します。

危険源を排除する（例：障害物を撤去する）
危険源に接近しないようにする（例：障害物のある場所を歩行禁止にする）
危険源からの回避を促す（例：危険源を目立たせる工夫によって注意喚起する）

できる限りの対策をおこない、事故の発生確率低下に役立てます。

安全教育へ活用する

ヒヤリハット報告は、安全教育のKYT（危険予知トレーニング）としても活用できます。KYTとは、作業場や職場に潜むリスクを予知し、解決する能力を高める訓練です。

ヒヤリハット報告書から得られた具体的な事例をもとに、イラストや写真から予測できる危険ポイントと、その解決の方法を従業員同士で話し合います。ヒヤリハット報告を共有できると同時に、安全意識の向上が期待できます。

出典：教育とヒヤリハット活動_厚生労働省

ヒヤリハット報告書の書き方に関するよくある質問

最後にヒヤリハット報告書の書き方に関するよくある質問と回答をまとめました。

Q１：ヒヤリハット報告のタイミングは？

ヒヤリハット報告は、できる限りタイムリーにおこなうのが理想です。「月末までにまとめて報告」とすると、詳細を忘れてしまいやすく、結果的に報告しない可能性もあります。

Q２：ヒヤリハット報告書の作成は義務ですか？

法律で明確に「ヒヤリハット報告書の作成義務」が規定されているわけではありません。しかし、労働安全衛生法の趣旨を踏まえて多くの企業が自主的に取り組んでおり、厚生労働省もヒヤリハット活動を推奨しています。

Q３：ヒヤリハット報告書と事故報告書の違いは何ですか？

ヒヤリハット報告書と事故報告書の最も大きな違いは「未然か、既に発生したか」です。

ヒヤリハット報告書は「事故には至っていないが、危険があった」ケース。事故報告書は「実際に事故が発生した」ケースに対して提出されます。ヒヤリハット報告書はあくまで予防の観点で作成される文書です。

Q４：ヒヤリハットとインシデントは同じですか？

ヒヤリハットとインシデントはほぼ同義で使われる言葉です。厳密には組織や業界によって使い分けが異なるため、インシデントの方が「安全上好ましくない出来事一般」を指すやや広い概念として使われるケースもあります。

Q５：ヒヤリハットがネタ切れしました。どうすれば良いですか？

ヒヤリハットのネタ切れを防ぐためには、日常業務で少しでもヒヤリとした出来事をメモする習慣をつけましょう。ささいなヒヤリハットも共有すれば、誰かの気づきになるかもしれません。

ヒヤリハット報告書を活用して安全対策をしよう

ヒヤリハット報告書は、事故や災害を防ぐために重要な役割を果たします。この記事で紹介した例文を参考に事例を多く集め、安全対策に活用しましょう。

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